大江健三郎賞受賞作品「嵐のピクニック」本谷有希子

「専門学校時代、トラウマなんて全く無いのに、どこか影のあるフリをし、綾波レイを演じていた。」

「ノストラダムスの地球滅亡説を信じ、あー、もーどうせ世の中終わっちゃうんだからイイヤ!と受験勉強を放棄した。」

「女子高生の頃、なんとなく学校生活がかったるいという理由で体中に生えてるあらゆる毛を剃ってみたことがある。」by生きてるだけで、愛。

など数々の変人エピソード、自分の劇団の名前に「劇団、本谷有希子」と、自分の名前をつけてしまう何とも言えない自意識過剰っぷり、演劇界の直木賞「鶴屋南北戯曲賞」最年少受賞など、数えきれないほどの伝説を持つ、劇作家・本谷有希子の小説「嵐のピクニック」(第7回大江健三郎賞受賞)について紹介します。

権力の罠がそこらじゅうに。若い子は気づかない

ちなみに、この小説は、さっき紹介した破天荒エピソードに比べるとかなり大人しい、割と普通な話です。

主人公は、社会的な成功を手に入れたデザイナー。ある日、バーで「あなたのいる世界は空っぽだ。」と若いデザイナー志望の男の子に噛みつかれる。周りにイエスマンしかいない環境にいた主人公は、その若い男の子に興味を持つ。事務所に引き抜き、若手アートグループをマネージメントする仕事を与える。

最初のうちは、本音で意見してくる彼を珍しがっていたが、次第に「批判をすること=望まれている事」という勘違いな振る舞い始めたので、全てがバカバカしくなる。「キミにはガッカリだ。」と怒鳴り付け解雇を言い渡す。顔面蒼白になった男の子が、無言で去っていく。

まとめると、こんな感じのストーリーです。その中で特に印象に残った言葉が2つ。

「本音をぶつけてくる世界も、お世辞を浴びせる世界も実はそっくり同じ事なんだってことに気づいたよ。みんな、僕を喜ばせようとしていることに変わりないんだ。距離が近いように錯覚しそうになるけれど、みんなが僕に気に入られようとしている。まだ何をしたいのか分からない子までも、対等に意見するんだ。」

「権力者に気に入られるってのは結局のところ、アドバンテージでも何でもないんだろうな。」

相手を喜ばそうとする、人として当たり前のコミュニケーションが、権力や富やプライドなどが絡むことによって、予期せぬ事態を引き起こしてしまう不思議。

誰にだって少なからず、権力者に近づきたい、あわよくば認めてもらいたいという欲望がある

冷静に考えてみると、こういう事態って誰にでも起こりうることじゃないかと思ったのです。

誰にだって少なからず、権力者に近づきたい、あわよくば認めてもらいたいという欲望があります。権力者の方は、少し残酷なことをしてでもその力を誇示しようとします。

もちろん僕だってそうです。自分からは絶対にガツガツいかないけれど、できるなら偉い人に気に入られたいと思っています。気にいられた後にやりたい事なんて、全く想像もつかないけれど、社会的に成功している人に認めてもらうことで自分の才能や存在に特別感を持てるのではないかと感じています。

権力者になった時にはきっと、若い子たちが何も知らないのをいい事に、彼らもてあそぶと思います。自分が過去に同じ立場にいたから、彼らの気持ちが手に取るように分かるからです。少しからかってみたくなるのです。けれど、心の奥底では、彼らを見下しています。人より長く生きてれば、知識も経験も多くて当然、それくらいの事は出来て当たり前だと思うからです。

どうでしょう。

まとめ

ちょっと世の中を斜めに見過ぎかも知れないけれど、それこそが、本谷有希子が面白い理由なのだと思います。世の中を斜め斜めに見る事で、日常に潜むインチキさや悪意をえぐり出していく才能。

誰もが一度は体験するであろう、日常の罠について書かれた面白い本でした。

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ABOUTこの記事をかいた人

現代アート好きドローンライター。日中英で影響力を持つ人物になるべく瞬発力を鍛える日々です。岐阜出身、大阪芸大卒。フィリピンで英語習得後、助成金を得て渡米、NYで修行しました。執筆実績:LIG,グノシー,DRONE MEDIAなど